朝日新聞の購読申込ページ 「会社員の副業、解禁でどう変わる?」紙面抜粋
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朝日新聞の朝刊紙面より 「SBは130人応募」
政府は「働き方改革」の一環として会社員の副業をしやすくしようとしている。ソフトバンクグループ傘下の「ソフトバンク」が先取りして昨年11月に副業を解禁したところ、同年末までに130人が手を挙げた。同社にサラリーマンの副業を見た。
北山景一郎さん(35)は休日、友人の看板屋を手伝っている。「看板はパッと見てわからせる必要があり、そこが勉強になります」。北山さんの手がけた看板を見せてもらう。「激安中古車 この先」。なるほどわかりやすい。
父はデザイナー、母は美術教師。自身も大学のデザイン科を卒業。ソフトバンクで動画作成の部署にいる。営業用の説明動画を撮り、創業者の孫正義ソフトバンクグループ会長兼社長が会見で使う動画も作る。看板制作の実入りは1枚1万円だが、むしろ「わかりやすさや色使いが本業に役立つ」と効能を説く。
ソフトバンクの長崎健一人事本部長は、「副業は他流試合、武者修行。その成果を自己成長につなげてほしい」と語る。ロート製薬(社員約1500人)などすでに副業を認めた企業もあるが、社員約1万7千人のソフトバンクの規模では珍しい。北山さんのように副業が本業を刺激し、「イノベーションを生む」(長崎氏)というのが、人事部門の狙いだ。
とはいえ、どんな副業でも容認するわけではない。NTTドコモなどライバル企業で働くのはご法度のほか「公序良俗に反しない」「雇用契約を結ばない」などの条件がある。「パン屋の店員になりたい」「コンビニで働きたい」という申請は退けられ、NPOの役員や俳優、大学院講師は認められた。
芦沢慎一さん(43)の場合は人事部門が意気込む狙いとは少し異なる。芦沢さんは知的財産アナリストや知財管理技能士の資格をもち、ソフトバンクが手がけた動画配信サービス「ユーストリーム」などコンテンツビジネスに関わってきた。ところが米IBMがユーストリーム運営会社を買収し、ソフトバンクは撤退。職場を失った芦沢さんは営業部門に移り、いまの仕事は広告の営業だ。
「人に教えるぐらいノウハウはあるんですが、自分の経験が生かせない」。そこで副業解禁後、「知財コンサルタント」の活動を本格化。アニメ制作プロダクションなどに契約書の作り方を教え、専門誌にも執筆する。副業収入が目当てではない。「サラリーマンは人事異動でどうしても知識や経験が生かせない部署に回ることがある。だったらそこで腐らず、有効活用できれば、日本のGNP(国民総生産)も上昇します」
厚生労働省の検討会は昨年12月、副業を認めるガイドライン案をまとめた。同省の「モデル就業規則」にある副業禁止規定を削除し、原則自由化する。担当の飯田明子課長補佐は「外と交流し、知見を得たい若い人もいる。中小企業の労働力が不足するなか、大企業で力が余っている人を有効活用したい」と言う。ソフトバンクの試みはこうした動きと軌を一にする。
ソフトバンクの鶴長鎮一さん(47)は副業解禁以前から許可を得て技術書やIT雑誌の記事を執筆してきたが、社名は出せず「テクニカルライター」を名乗ってきた。副業解禁を受けてソフトバンクの社名や経歴を明らかにして活動できるようになった。昨秋からグループの「サイバー大学」で非常勤講師も始めた。
必要な技術や資産を企業買収によって手にしてきたソフトバンクだが、鶴長さんはそんな見方を覆したい。「実は社員の半分以上はエンジニア。副業によって社内に優れた技術者集団がいることをPRしたい」
孫氏が輝きたがるなか、社員たちも光を放ちたがっていた。
朝日新聞朝刊より引用